■ White Album

2008年11月 第41期ライブ係

 今からちょうど40年前の1968年、この年はビートルズが『The BEATLES(通称White Album)』を発表した年である。
 ほかにも1968年には、ポールが中心となってはじめた事業、アップル・コープス・リミテッドやインドのマハリシのもとでメンバー全員での修行など、ビートルズは様々な活動を行っていた。また、「Hey Jude」が発表されたのもこの年で、当時6分を超えるポップソングは異例だったにもかかわらずこの曲は大ヒットし、ビートルズのシングルの中で最も売れた作品となった。『White Album』も大ヒットし世界に圧倒的なパワーを見せつけたビートルズであったが、一方で上手くいかないことも起き始めたのが1968年である。
 ブライアン・エプスタインの不在は大きく、アップル・コープスの経営状況はただひたすら下降していき、マハリシもとでの修行も結局メンバーにとって何も得られるものはなく期待を裏切られた形となった。前年末に公開された映画「Magical Mystery Tour」の評判も悪く、これはビートルズ初の失敗といわれた。また、ジョンはヨーコとの仲を急速に深め、聖地であったはずのスタジオに彼女が出入りするようになった。そのことはビートルズのチームワークにも少なからざる影響を与えていたようだ。
 つまり、1968年とはビートルズにとって転換の年だったのだと思う。メンバーの興味はそれぞれ別の方向へ向き、解散という言葉が見え始めたのは明らかにこの頃だ。実際リンゴは『White Album』セッション中「グループを辞めたい」と漏らし、1週間ほどスタジオを離れていた時期があったそうだ。アルバムを聴いてみてもソロ作品の集合体といった感じで、メンバーそれぞれの曲はバラバラ、全体的に複雑で捉えがたい印象を持つ。しかし、これは逆に自由で解放的であると言え、個性的な名曲が多くあるのがこのビートルズの2枚組の名盤『White Album』の特徴であり魅力なのだろう。結果的に『White Album』は2枚組のアルバムとしてはアメリカで最も売り上げた作品となっている。

 ここからは、『White Album』に収録されている全30曲をメンバーそれぞれの曲に分けておさらいしていこうと思う。

 まずポールの曲からだが、「Back In The U.S.S.R.」、「Ob‐La‐Di, Ob‐La‐Da」、「Wild Honey Pie」、「Martha My Dear」、「Blackbird」、「Rocky Raccoon」、「Why Don’t We Do It In The Road」、「I Will」、「Birthday」、「Mother Nature's Son」、「Helter Skelter」、「Honey Pie」の全12曲。ポール一人で録音した作品が多く全体的に穏やかでポールらしい曲が目立つが、「Helter Skelter」のような騒がしい異色作もある。この曲のオリジナルは25分にも及んだが、編集で大部分がカットされたとのこと。
 オープニング曲の「Back In The U.S.S.R.」はポール自身の航空機での移動中の体験を元に作られた曲と言われており、タイトルとテーマは、チャック・ベリーの「バック・イン・ザ・USA」のパロディー、サビの歌詞とコーラスはザ・ビーチ・ボーイズのパロディーとなっている。この曲の録音中にリンゴが一時的に脱退したため、ドラムスとリードギターはポールが演奏した。ポールらしい穏やかな曲のひとつ「Blackbird」は黒人女性の人権擁護や解放について歌った内容で、メロディ、独特のスリーフィンガー奏法ともに際立っている。

 次にジョンの曲。「Dear Prudence」、「Glass Onion」、「The Continuing Story Of Bungalow Bill」、「Happiness Is A Warm Gun」、「I’m So Tired」、「Julia」、「Yer Blues」、「Everybody’s Got Something To Hide Except Me & My Monkey」、「Sexy Sadie」、「Revolution 1」、「Cry Baby Cry」、「Revolution 9」、「Good Night」の全13曲がジョンの作品。正直、ジョンの曲が1番個性的で複雑、難解な印象を受ける。
 「Happiness Is A Warm Gun」は別々の3つの曲をつなげて作られた非常に複雑な大作で、歌詞も隠喩的な内容になっている。ジョンはこの曲について、「ロックンロールの歴史みたいなもの」と述べている。3曲目の「Glass Onion」は世間のビートルズの曲の歌詞に対する勝手な解釈をからかうような内容になっており、歌詞のなかにビートルズの曲名が多く登場する。終盤に登場する「Revolution 9」はジョンとヨーコによる前衛作品でビートルズの公式発表曲の中でもっともな長い曲だが、聴いていて頭が痛くなるような作品だ。

 続いてジョージの曲。「While My Guitar Gently Weeps」、「Piggies」、「Long Long Long」、「Savoy Truffle」の4曲だが、ジョージといえばなんといっても「While My Guitar Gently Weeps」だろう。アルバムの中でも、1、2を争うこの曲は彼の出世作だ。エリック・クラプトンがギターソロを演奏したというのはあまりにも有名な話。また、「Savoy Truffle」はジョージがクラプトンの歯痛を面白がって作った曲だ。「Long Long Long」も隠れた名曲で、ジョージの曲は少ないながらも、曲の良さではポールにもジョンにも劣っていない。

 リンゴは「Don’t Pass Me By」を作曲していて、この曲が彼のソングライティングデビュー作。リンゴらしいカントリー調の楽しい曲だが、歌詞の内容は悲しかったりする。また、リンゴはジョンの作品である「Good Night」でボーカルをとっている。

 このように作曲者別に分けてみると、メンバーそれぞれの個性が浮かび上がってくる。アルバムの大半の曲はジョンとポールが書いているが、「Back In The U.S.S.R.」や「Birthday」のようなポールお得意のご機嫌な曲はやはりジョンには書かけなかっただろうし、逆も言える。「Julia」や「Sexy Sadie」といったメロディアスだが、どこか哀愁漂う作品はジョン特有のものだ。ジョンとポールがそれぞれ自分らしい曲をぶつけ合い、またジョージも名曲を書く。『White Album』は2枚組だが、曲を絞り込んで1枚のアルバムとして発表していたらその出来は『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』や『Abbey Road』に並んでいたのではないだろうか。
 しかし、雑多な感じがこのアルバムの良いところなのだろう。「Back In The U.S.S.R.」で勢い良く幕を開け、次々と名曲が続きそして2枚目に突入するにつれどんどんと混迷を極めていく。曲に溺れるようなこの感覚がたまらない。レコーディングが別々に行われることが多かったせいなのか、良い意味でこのアルバムはバラバラでまとまりがない。個性のオンパレードだ。このことは後々の解散を暗示していたのだろう。

 『White Album』発表後メンバー間の亀裂はより一層なものとなり、2年後の1970年、ビートルズはついに解散に至る。『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』で頂点にたどり着き、『White Album』で転換期を向かえたビートルズ。それはメンバー間の不仲というマイナス面を生み出した一方、個性豊かな大作『White Album』を作り出すことに成功した。その辺のことを考えて、このアルバムを聴きなおしてみると面白いかもしれない。